宮川漁法ミュージアム

宮川流域の漁法・水辺の暮らしの聞き取り

ウグイ捕り ~お父さんの網を引き継いで~

大西 学さん

1.子どもの頃

生まれも育ちもずっとここ、大杉育ちやな。大正15年生まれやでもう90歳になる。通ったのは大杉小学校。小学校に入学した時は60人以上同級生がおった。クラスは一クラスだった。わしらは高等2年でもう働く先は決まっとった。わしは山へ行った。ここらは何もすることあらへんで、夏は川行く、冬は山や畑する。そんな暮らしやわな。

2.子どもの頃、お父さんと行ったウグイ捕り

わしら学校行っとる時分からしゃくり(*1)でアユを捕っていた。昔は川って言ったらみんな夢中やった。一番はアユ捕りやな。その時分は何もすることなかったでな。川へでも行っとらな。わしらの頃はみんな川の事は大概のことをしとるわな。ここらにいる年寄りはみんなしとるわ。

お父さんは重蔵って言う。子どもの頃からウグイ捕りをしていた。わしは学校上がってからお父さんと一緒によくウグイを捕りに行った。ウグイが捕れるのは5月から6月いっぱい。ウグイが一所に寄って産卵をするのを「つきウグイ」って言う。災害(平成16年の台風災害)まではそこら中ウグイがつきよった(産卵のために寄ってきた)。

ウグイを捕る網は投網でな、投げて広がると6畳ぐらいの丸に広がる。一回投網を投げると、多い時は200匹、覚えがあるのは500~600匹も入った。昔はようけ(たくさん)捕れた。お父さんの頃は一日で何千て捕りよった。5人ぐらいのグループでな、分けて持って帰った。わしの折はウグイ捕りをする人もそんなにおらんだで、グループでするほど人は集まってこなかった。災害からこっち、ウグイが少なくなったが、昔は桧原の橋の下にようけつきよった。昔の川、見たらびっくりするわな。

(*1)しゃくり 竹竿の先に付けた一本針を魚の体に引っかけて捕る漁法。

3.学さんのウグイ捕り

わしはウグイ捕りが一番得意だったな。ウグイの投網を始めたのは、わしが35歳の時にお父さん死んでからやでな。ウグイ捕るのは網が無かったらできんでな。子どもの頃はしゃくりでアユ捕るのはおったけど、ウグイ捕りは大人になってからやわ。鮎捕りは大人やったら誰でもするが、若い人でウグイ捕りじっとしよったのはわしぐらいやったでな。

お父さんの時分はそこら中、自然とウグイがつきよったけど、わしの折にはそれほどではなかった。せやで、ウグイの巣(産卵場所)をこしらえてするんさ。

4.習性を利用したウグイ捕り

アユは上ってきてな、場所をとって(縄張りを張って)そこに棲みつくやろ。ウグイはここって棲みつかんの。ここにおったり、あっちにおったり。ここでウグイがつきそめると、下の方に水が流れるやろ、それで下におったのも上ってくるんやわ。みんな卵を産みに集まってくる。せやでな、ウグイのつくところをこしゃえるんさ、せやで間違いのうつくんやわさ。

床(川底)が細かい砂地やったら絶対つかんの。床が最低でも5~10㎝の石んとこにする。産んだ卵がな、下へ入ってかんことにはあかんの。この大きさの石(5~10㎝)を15~20㎝積んでな、ガンガンって叩いて馴染ませる。床が大きい石のようけの所はな、石をいっぺん掻いてどかしたってな、大きな石を下にほりこんでならしてな、その上にむいて5~10㎝ぐらいの石を入れる。そうせんことにはつかん。卵、産んだ場所を掘ったらな、玉になって卵があるん。わしらはウグイ捕りたいでそう卵は掘らんけどな。

深さはどれだけでもいい。昔、わしがお父さんについて行った時分はな、見とっても床が分からんぐらい深いとこへつきよった。この投網の長さ(約2,5m)いっぱいぐらいの深いとこでもな、ええとこあったら自然とつくわけなんさ。深いとこはには巣は作らん、よう作らんもん。お父さんがしとった時分は、巣作るってえろうせーへんだ。つきよったでなちょこちょこと。わしらはな、そんな深いとこかなわんもんでな、浅いところでやった。

流れはあんまりな急なとこはえろーつかん。急なとこしたって流れてくやろ、ウグイもようおらんし、卵も流れてったらあかんし。アユはな、竿、持ってったら捕れるけどな、ウグイ捕りするんやったら、浅いとこへむいて巣こしゃえてな、そうすると間違いなくつきよった。多いおりは1000~1500匹やな。ウグイついたの見たら綺麗なもんやよ。体、赤こうしてな。そこに1日に何遍も網を投げて、じっと捕りよってん。ウグイ捕るのは難しないよ、アユ捕りの方が難しい。

5.投網の投げ方

投網の持ち方

網の持ち方は、イワ(重り*2)の一部を肘にかけてな、反対の手で残りの網を半分くらい手繰った所で持ってな、腰をひねって横から投げるんさ。ウグイがいるとこむいてな、重りついとる下の方がパーって丸く広がるんさ。わしらはあかんのやわ、遠いとこへ投げる折、力入れて投げるやろ、そうすっと広がらんの。丸やなしに長細くなる。投げるのでも力ないで、手でばっか投げるやろ。昔の人は、手やない、腰でぱっと投げるでな。コツがある。

始めに網を投げるまではな、そこらジャボジャボしてもウグイみんなも逃げせんよ。立って待っとると、またねき(近く)へ寄ってくるもんな。卵を産むのに夢中なんやろうな。多い時は1回放ると200匹ぐらいは捕れよったよ。

ウグイを入れるカゴは、昔は竹で編んだやつでな、あんなやつはもう無いようになったでな。カゴに500匹ぐらいは入るもんで、それぐらいウグイ捕って持って来よったでな。帰る途中で欲しい人は持ちにくるで、家へむいてそんなにも持ってこんけどな。

(*2)イワ(岩) 網につける重り

学さんのウグイ捕り風景/桧原橋の下にて
(平成16年の台風災害前に撮影)

学さんが最近までウグイ入れに
 使っていたカゴ

6.絹糸製の投網とナイロン製の投網

お父さんが作った絹糸製の投網

絹糸の投網はわしとこのお父さんがな、死ぬ前にこしゃえた(作った)やつや。せやでこれはずいぶん前のものや。60年ぐらい前のやわ。まだ上等に使えるんやな。

死んだお父さんの投網な、繭から糸こしゃえて、作っとった。昔は繭を湯で煮といて、端っこ出して、何本何本ってして(何本かまとめて)さ、回すやつ(糸を撚る道具)あるやろ、それを回して撚りかけて、糸こしゃえてな、そいで作ったんや。みんな編んでな、一目ずつくくって。これ手でしようと思ったら大変なんやで。

こんだけの網や(長さ約2、5m)、始めは80目ぐらいで、一番下では600目になるん。だんだん目を増やしてくん。目が一つから二つになっとるとこあるやろ。そうやって増やしてくんさ。

やがてウグイつく時分にな、柿の渋、あれに浸けて干すとシャンシャンになるんさ(網に腰が出る)。1回投げただけでは渋は流れんけど、ウグイ捕るんやったら5偏も6偏も投げるで、渋が落ちてへなへなになる。置いとく(しまっておく)のに渋しとくと、網ボロボロになってくん。置くんやったらな、渋せんと置かなあかん。

ナイロンの網はわしが60歳からこっちのもんやな。ナイロンの網は円錐形の形で売っとるのを買うて、裾の袋のところはわしがこしゃえたんさ。重りもこしゃえてつけて。それまでお父さんの網を使こうとったんや。

投網はな、裾を袋状にしてあって、ここへむいてウグイが入るんやわ。刺し網ってやつは、網の目へかかるけどな、投網はこの袋へ入るんさ。

ナイロンのも絹糸のも、放る(網を投げる)のは一緒なんやけどな、手触りが違うやろ。絹糸のは柔らこう感じるやろ。絹糸やで値打ちあるでな。

ウグイの投網の形

投網の裾の袋状の部分

7.見よう見まねで覚えた網直し

イワ(重り)を作る型

網直しはな、わしもあーしたらええ、こーしたらええーって習わんとやっとるんさ。網を我がと作るのは、人にしてもらったら銭かかるでな。我がとしたらかからんでな。

網につけるイワ(重り)はお父さんがしとった。それでわしもこしゃえたんさ。

型に鉛を溶かしてイワを作るんさ。 型は砥石を削って、二つ合わせてイワの形になるようにしてある。網に通すための穴はな、和紙の紙縒(こよ)り(*3)を使った。型に合う太さの紙縒りを通しておいて、2枚の型を合わせてな、穴から鉛を通して(流しいれ)、鉛が型いっぱいになると、ぽわっと穴から出てくる。じきに上が白くなるから、和紙を引き抜いて型を外した。そうするとイワができた。

重りに穴を空けるために
 紙縒(こよ)りを溝に入れる

一反(*4)するのにな、ずいぶんいるんやぞ。100個ぐらいいる。イワ作る型は、わしが子どもの時分にはあったんやわ。わしはやがて90歳やでな、大方100年ぐらい経っとるんとちゃう。ここらの人はこういうことはたいがいしとる。誰に聞いても同じような事を言うと思うよ。

ここら、アユ捕るのに刺し網(*5)で巻いて捕るやろ。そういう網を直したり、買うてきた網を作り替えるんさ。売っとる網は、上と下と同じ長さの長方形しとる。せやけどそのままは使えんの。下より上をちょっと短こう作り替えなあかんの。網を台形にせんことには、川、入れた折にぺたんとこけてくるんやわ。アバ(浮*6)付いとっても浮かんの。

買うてきた網でな、30mの長さの2つとれるでな。それを下に鎖つけて、上にアバ付けてな、それがめんどくさいんさ、それをいちいちくくらなあかんでな。浮はな、木のアバ(浮)こしゃえて、上につける。みんな買うてきた丸いウキにしとるけどな、わしあんなん嫌いやから、今までみんな手作りしてる。アバは長さ15㎝で厚み1㎝ぐらいの作るんさ。

今年も5月頃から網作るん。4つばかし頼まれとるんや。もうえらいで(大変だから)、えろーしたないんやけど、頼まれるもんで、しゃーないしな。

(*3)紙縒(こよ)り  和紙を細長く切って、よりをかけてひも状にしたもの。

(*4)一反 布の大きさの単位 一反=長さ約12m50㎝

(*5)刺し網 網目に魚の頭部を入り込ませる網

(*6)アバ 網に付ける浮の事

学さん手作りの木製のアバ(浮)

刺し網、上に付いているのはアバ(浮)



平成28年3月作成
ウグイ捕り ~お父さんの網を引き継いで~ 終了



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